アテルイ

f0097528_1722717.jpgアテルイを知っていますか?



遡ること千二百数十年前。奈良から京都へと都が移る、奈良時代末期のことです。
当時の大和朝廷における北の国境は、現在の宮城県多賀城市と山形県酒田市あたりを結ぶ線でした。その北方は蝦夷です。多賀城はその名の通り国境警備の砦と行政府を兼ねた城が築かれた場所でした。
奈良時代を通じて次第に東北への侵攻を深める朝廷に対し、蝦夷は反乱を起こし、遂に全面戦争へと発展します。その際朝廷側で活躍したのが有名な征夷大将軍、坂上田村麻呂。そして朝廷を相手に果敢に戦ったのが蝦夷の英雄がアテルイです。

戦乱は数十年におよびました。最終的には朝廷が勝利し、アテルイとモレという蝦夷の指導者は河内(大阪)にて処刑されます。
近年アテルイを扱った小説やドラマによってその存在が知られる半面、史料は断片的にしかなく謎も多い存在です。

そこで読んでみたのがこの本。文献史学の研究者や考古学者を集めて開かれた、最新の知見を突き合わせる討論会の内容を編集したものです。
いやあ……。先生方、熱い!熱すぎる。
古代史の用語に慣れないと読みにくさもあるのですが、そんなことは吹っ飛ぶくらい研究者の熱に乗せられて一気に読んでしまいました。討論会はしばしば緊迫します。
「さきほど私の論を全面的に否定されたけれども、この点だけは明確に……」
「いや、全否定とまでは言ってないよ」
「しかし」
行間にバチバチと火花が飛び散ります。ただ感情的に言い争うわけではありません。きちんと論拠を示しながら議論をぶつけ合うのです。しかも激しく斬り合った直後に、別の論点に関しては相手を全面的に支持して称えたりして、潔いところは実に潔い。

結局「分からないことは分からない」、これが一番大事だということを痛感させられます。歯痒いけれど研究とは進めるほどに分かるというよりも、かえって分からないことが増えるものだと改めて思いました。
想像を膨らませるのも実に楽しいのですが、かといって歴史に先入観を持ち込むのは危険。少なくとも研究者たるものは、その謙虚さを誰よりも守らなければならないのですね。
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『アテルイと東北古代史』熊谷公男編(高志書院)
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by pavilion-b | 2017-01-31 17:22 | 絵本と本のこと | Comments(0)