写真をアートにした男

f0097528_20374930.jpg写真に関してはまったくの門外漢。でもタイトルに惹かれて手に取りました。



写真好きには有名な存在だそうですが、私は初めて知りました。日本で初めて写真専門のギャラリーを開いた石原悦郎(1941-2016)。

現在でこそ写真展が開催されたり、ギャラリーで写真作品が高額で売買されたりするのはふつうのことです。しかしかつては違いました。そもそも写真は新聞やグラフ誌などの素材であって、印刷された状態、つまり最初から複製化されたものである以上、基本的に一点ものである絵画などと同列のアート作品とは見られていなかったのです。
いまとなっては信じがたい話ですが、新聞や雑誌の現場はもちろん、写真家本人でさえもそういう認識だったために、印刷を終えたあと原版(プリント)やネガが散逸してしまうケースが珍しくなかったといいます。写真はいまだジャーナリズムの一部でした。

そんな時代に、石原悦郎はいち早く写真をアートと捉えた一人でした。オリジナルプリントというモノがいずれ必ず芸術作品として扱われるようになる、その可能性を信じ、単身パリへと渡ります。そしてアンリ・カルティエ=ブレッソンやロベール・ドアノーといった名だたる巨匠とも交わり、作品を買い付け……、本書で描かれるその経緯は実にスリリング。情熱だけでなく、強運の持ち主でもあります。

しかし1970年代、日本にはまだ写真をアートとして鑑賞する観客がいませんでした。そこで観客およびコレクターを育てることから、一方では日本の写真作家を紹介し、新たな才能の発掘も行うという、様々な取り組みに奔走します。それは「写真はアートである」という強い信念と、「10年後にはこれがスタンダードになる」という確信のなせる業でした。
道なきところに道を作った、その情熱の源は実にシンプルです。自ら選んだ写真家に対する絶対の自信、それはこんな言葉にもあらわれています。

「他のものなんて僕の眼中になかったから。ユマニテ(人間性)があって、その時代の、やっぱり時代背景があるものが美しいなあ。見ていれば見ているほど時間が経って素晴らしい。周りの人がなんと言おうと関係ないんですよ」

『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』粟生田弓(小学館)
[PR]
by pavilion-b | 2017-07-04 20:32 | 絵本と本のこと | Comments(0)