山の池

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前回の六甲山のつづきです。



六甲ミーツアートで植物園やオルゴール館といった山上施設を周遊した折、ふと気になったのは「池」。所々に溜池があり、これがとてもいい仕事をしているのです。
たとえば庭園の一部として利用されていたり、小脇の建物を引き立てていたり。花で彩られた池端もあれば、小径で縁どられた池もあります。もちろん池を利用したアート作品も。
水面には落葉や藻が浮かび、ときどき魚が跳ね、空や雲が映り……。暗い深みは叙情を誘います。水辺は表情が豊かですね。

ただ周辺には田畑はほとんどありません。溜池といえばふつうは農業用かと思うのですが、山頂付近は標高900メートル近くもあり、しかも人里から遠く離れているので奇妙に思えます。
山頂付近にあるものといえば、古めかしいホテルや商店といった観光施設。ひょっとすると、溜池はそういう施設に利用されていたのでは? ちょっと歴史を調べてみたくなりました。

そこで資料を齧ってみてびっくり! めくるめく変転の連続で、とても一筋縄では把握しきれません。
中でも驚くのは、六甲山がかつて禿山だったという事実。中世には度重なる戦乱のために山が荒廃したこともあったようですが、江戸から明治に至っても燃料や資材収奪といった様々な要因により乱開発され、ほとんど岩と柴草だけの山になってしまったとか。
あまりの惨状と土砂崩れなど度重なる災害に反省し、明治の中ごろからはようやく植林推進へと方向転換します。その後は居留地の外国人が始めたリゾート開発や太平洋戦争による荒廃を経つつ、防災的観点からも緑地が見直され、現在の緑あふれる姿を保つに至っています。

興味深いのは、一時はすっかり禿山であったことから、現在見られる植生は主に明治時代に植林されたものの子孫だということ。しかも実に様々な樹種が植えられたおかげで、今や希少となった照葉樹林を含む多様な森林が再生しているのです。
六甲山は古い歴史を持つ有数のリゾートでもあり、レトロな建造物など魅力が溢れる一方で、どこか人工的な臭いのする場所だなとも感じていました。ところが人工的どころか、まるまる全部一から人の手で再生された「自然」でもあったのですね。逆に時間を掛ければ、人の手によっても自然を蘇らせることができるという、広大な見本といえるのかもしれません。

ちなみに溜池のいくつかは、江戸時代には山林開発に伴って利用されていたと考えられています。さらに明治に入ると「製氷」のために多数の池が掘られます。池に張った氷を近くの氷室に収めて保存し、夏場に街へ下ろして売るのです。神戸という大消費地を直下に持ち、天然氷の製造販売は一大産業となりました。その後冷蔵庫の普及とともに製氷は廃れ、スケートリンクとして賑わった時代も経て、現在は観賞用に。
考えてみれば溜池や田んぼは立派な人工物ですが、たいていは自然の風景として親しまれています。人の手で作ったものも、時を経て自然と馴染んでゆくことは可能だと教えてくれる風景です。


六甲ミーツアート芸術散歩2017
2017年9月9日(土)~11月23日(木祝) ※会期中無休
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by pavilion-b | 2017-10-21 07:32 | 旅でござんす | Comments(0)