2017年 08月 16日
翻訳今昔
「ほんやくコンニャク」じゃありません。
翻訳の今と昔。
近年、海外文学の新訳出版が細々とですが続いているように感じます。読者としてはたいへんありがたいことです。
まず昔のは紙も印刷もよくなく、おまけに字が小さく薄かったりして読みにくい(すでに老眼が始まってますので……)。旧字体でかなりカクカクしてるし。
さらに言葉づかい。全集ものが多数出版された20世紀中ごろといえば、戦前戦後に当たります。70年近くも経てば、同じ日本語でもずいぶん変化しています。今そんな言い方しないなー、という表現が所々に出てくると、それはそれで古い時代の作品という印象には寄与するものの、かえって感情移入を妨げることもあります。
最近特に衝撃的だったのが、ヘミングウェイの『老人と海』。新しい光文社の小川高義訳を新鮮に読んだあと、手元にあった新潮社の福田恆存訳(ちなみに「夏の100冊」の帯付きでした。なつかしー)を読み比べてみてビックリ! かなりニュアンスがちがい、作品全体の印象も大きくちがいます。
たとえば新訳で「親父」とされているのが旧訳だと「おとっつあん」、漁師がたむろする居酒屋「テラス」は「テラス軒」、これだけでもずいぶん雰囲気がちがいます。また会話文の言葉づかいで人物造形が変わったり、そもそも文全体の長さがちがいます(新訳の方が短い)。
これは単純に新訳の方がいい、という話でもありません。ただ新訳はこれまでに積み重ねられた研究成果などもかなり踏まえているようなので、分があるのは確かです。
新訳はいわば音楽でいうデジタルリマスターみたいなものでしょうか。作品からノイズを除去してピカピカに蘇らせた感じ。もちろん賛否はあると思います。いわば旧訳派はその作品に染み付いた「古臭さ」も含めて味わいたい人(レコードコレクターっぽい?)、新訳派は作品が書かれた当時の新鮮な感覚そのままに読みたい人、といったところかも。
『老人と海』みたいな短篇なら、読み比べてみるのも楽しいですね。作品の味わいが増すと同時に、意外にも日本語の勉強になります。
■『老人と海』ヘミングウェイ
・(光文社)小川高義 訳 2014年初版
・(新潮社)福田恆存 訳 1966年初版
by pavilion-b
| 2017-08-16 20:32
| 絵本と本のこと
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