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いい雨

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お昼前からポツポツと降り始め、午後は冷たい本降りの雨。



でもネットで映画を観て過ごす休日には、後ろめたさが和らいでいい感じです。自宅で好きなときに映画を観られるなんて、ほんとうにすごい時代になったものだ。
「イル・ポスティーノ」1996年公開。1950年代、共産主義活動によって祖国を追われたチリの国民的詩人パブロ・ネルーダが、一時イタリアに亡命した史実をもとに作られた物語です。イタリア南部の島で自由を制限された日々を送る詩人のもとへ、郵便物を届ける仕事を得た貧しい漁村の青年マリオ。彼はやがて詩人とその言葉に魅せられ、それまで気づかなかった世界の扉を開き始め……

そそり立つ緑の山と白い断崖、波高い海辺、強い風、教会の鐘の音。
当時はまだ司祭や政治家など一部を除き読み書きが不自由な人も多く、人々は貧しさを自覚することも、それに抗する術も知りませんでした。

ふだん当たり前のように言葉を使っている私たちにとっては、言葉はまるで水や空気のような存在かもしれません。しかしこの水さえも不足しがちなイタリアの島では、言葉の持つ力があらためて立ち上がってきます。ときにやさしく、ときに激しく、ひとつひとつの言葉が文字通り詩となり、武器となり、人々を動かします。
言葉に求めるものは何か、言葉の役割とは、詩とは……。最初はまだ読み書きも覚束なかったマリオが言葉を求め、言葉に手繰り寄せられるように親しんでゆく姿を通じて、私たちもまたその輝きにあらためて触れるようです。

同作の脚本はマリオ役も務めたマッシモ・トロイージによるもの。イタリアでは喜劇俳優や映画監督として活躍していましたが、もともと持病があり、同作の撮影開始直前には医師の勧めで心臓移植手術の準備するほどの状態でした。しかし映画化を待ち望んでいた彼は手術を延期して撮影に臨みます。そして4ヶ月の撮影にすべての力を出し切り、クランクアップの12時間後に41歳で帰らぬ人となりました。
by pavilion-b | 2020-03-10 20:09 | Comments(0)