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モランディ

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なぜイタリア人はおしゃれなのか?




なぜいきなりそんな話かというと、最近モランディに関する本を立て続けに読んだからです。いやあ、とても興味深かった。

画家ジョルジョ・モランディは1890年イタリア北部の都市ボローニャに生まれ、生涯ほとんど地元から出ず、アトリエ内の卓上静物と近所の風景だけを描き続けました。長年にわたって同じような(と思われがちな)画ばかりを繰り返し描く態度と、その画の静謐な印象とが相まって、まるで「高僧のよう」と神秘的に語られることもしばしばです。しかし画家が残した手紙や当時の美術批評等を丹念に紐解いた研究により、その画業における真の探究や価値が見えてくると、確かに20世紀前半におけるもっとも重要な美術家の一人だと感じずにはおれません。ほぼ同世代のピカソに匹敵すると言っても(本人は即座に否定するようですが)言い過ぎではない気がします。


さて、ここからは飛躍です。あしからず。

イタリア人がおしゃれかどうかはもちろん個人の主観によりますが、わたしはそう感じます。

今はコロナ禍で、奈良でもあれだけいた外国人観光客がパタッと消えました。けれどもその前までは実に様々な国の人たちが毎日往来を闊歩していました。その中でも服装でパッと目を引くグループがあると、たいていイタリア人。自信はないけれど、話す言葉で何となく判ります。(ピザ屋の場所を訊かれて案内したこともあったしね!)

何がおしゃれって、ほとんどジャージとかデニムとか気楽な旅装なのに、色の取り合わせやサイズのフィット感、ポイントの効かせ方が絶妙なのです。何が自分に似合うかもよく分かっている感じ。そういうコーディネートを、たいしてお金も掛けずにできてしまうあたりが真におしゃれ。気張った感じもまったくありません。


で、長年それはなぜなのかと思っていたのですが、モランディの本を読んでハッとしたのです。

モランディは同じ瓶や壺を、卓上で微妙に並べ替えながら何度も何度も描きました。素人にはほとんど同じような画にしか見えず、まるでまちがい探しのような画。でも色彩、陰翳、フォルム、対比、いずれをとってももちろん同じものはふたつとありません。その微細なちがいに注目する視線、それは想像以上に強く厳しい眼力だと思います。これとこれのちがいは何か、どちらが美しく見えるか、すなわち美しいとはどういうことか……。

その鑑賞力がひとりモランディ自身だけではなく、ローマ時代以来の歴史文化の蓄積によって鍛錬されてきたものだとすれば。イタリアに生まれ育った人たちが自然と美意識を培っているとしても、不思議ではない気がするのです。殊にモランディやその同時代のイタリア美術に関する批評の数々から、芸術に親しむ土壌の厚みを感じそんなふうに思った次第です。


by pavilion-b | 2020-10-31 06:50 | 絵本と本のこと | Comments(0)