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恋のチャンスは一度だけ

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あのとき、ああしていたら……



その猫は鈴付きの首輪をした雄猫。わたしの中で勝手にタルコフスキ、略してタルコと呼んでいます。ある時期から飼われている家の近辺でよく見かけるようになりました。最初は小さかったのが、みるみる大きくなり、今や堂々たる体躯で毛並みもきれい。そこらのノラとちがい、いいもの食べてんなあと一目瞭然です。
そんなタルコがまだ仔猫らしかったころ、通りすがりの私にとつぜん甘えてきました。

薄暗い帰り道でした。垣根から飛び出してきたタルコが、ひっくり返ってお腹を見せます。わたしもうれしくて、温かいお腹や首のあたりを撫で回しました。タルコはゴロゴロいって、目を細めます。もう、お互いにメロメロ。急速に縮まる距離。
でもわたしは帰らなくちゃいけない。それによその家の猫を勝手に愛撫し続けている状況がどこか後ろめたく、通る車のヘッドライトに思わず顔を伏せたり。後ろ髪を引かれつつも、わたしは立ち上がりました。

「バイバイ」と手を振り行こうとすると、タルコも立って脛にまとわりつきます。歩き出しても両脚の間を8の字にぐるぐる回り、なかなかスムーズに行かせてくれません。尻尾をピーンと立て、甘く「ニャッ」と鳴き、そのつど屈んでまた少し撫でるものの、さすがにもう次の曲がり角です。
最後は心を鬼にして大股に離れました。なおもまん丸い目で見つめるタルコ。でも家からそれ以上離れることに不安を覚えたらしく、とうとう角のところで立ち尽くしてしまいました。辛い別れでした。

以来タルコは「ツン」と「デレ」の割合が9:1くらいになりました。それから半年ほど経ち、今ではほぼ「ツン」です。道で会っても目を逸らすし、撫でようとするとスルリと身をかわすし。そのくせ他の人には甘えている現場も目撃するので、けっこう根に持つタイプだなと。
そんなタルコがごくたまーに、よそ見しながらも尻尾をピンと立て脛に体当たりしてきたりすると、とたんにメロメロになってしまうわたし。すっかり手懐けられています。

by pavilion-b | 2022-05-05 07:36 | Comments(0)