パビリオン店長日誌
2024-03-14T06:05:02+09:00
pavilion-b
奈良の路地裏でカフェを営んでいます。 生まれも育ちも東京ですが、奈良に住み早19年、すっかり近くに山並みが見えないと落ち着かなくなりました。とはいえ盆地特有の酷暑も底冷えもまだ慣れません。
Excite Blog
夢のあと
http://pavilion.exblog.jp/33876502/
2024-03-14T06:05:00+09:00
2024-03-14T06:05:02+09:00
2024-03-05T20:06:17+09:00
pavilion-b
旅でござんす
ギャラリーは忽然と姿を消していました。
先日来店したスイス人が言うには、京都や奈良を巡ってきて「このあとKAWAZUに行くんだ」と。
「ひょっとして河津? 桜の?」
「Yes! Cherry blossoms.」
皆さんよくご存知ですねー。
それにしても懐かしい。有名な河津桜を観に訪れたのは、かれこれ20年以上も昔。運良く花は見ごろだったものの、あいにく雨混じりの寒い一日でした。そのせいか、偶然通りがかった写真ギャラリーに思わず吸い込まれたのです。
小さな建物で展示物も多くはなかったのですが、全体にまだ出来て間もない印象でした。何といってもその空間がおしゃれなのです。美術館のように凛とした佇まいで、桜見物で賑わう外とは真逆の仄暗さと静けさに包まれていました。
そして、コーヒー。ウッドデッキが眺められる窓際のテーブルに、真っ白なカップ・ソーサーで出されたそれは、まるで展示作品の銀塩写真と溶け合うかのように、深く豊かなコントラストを醸していました。
コーヒーは時として、カメラにおけるレンズ(または針穴)に似ていると思うことがあります。そこに外の光が集約され、反対側にある暗箱の中に像を投影する、いわば世界と心象の懸け橋のようなもの。
そう考えると何だかロマンチック過ぎる気もしますが、事実コーヒーが介在することで情景が追憶となる体験をいくつも味わってきました。あの黒い淵に時空がギュッと吸い込まれ、心の中へ滲みわたるように焼き付けられるのです。
あのとき河津で出会ったコーヒーの佇まいは、いまも大切な心の指針のひとつです。
懐かしさで思わず検索してみたものの、意外にギャラリーの現況が分かりません。記憶を辿り、さらにいくつかの手掛かりからついに場所を探し当てた結果、映し出されたのは古ぼけた平凡な空き家でした。いつの間にか廃業し、外装も解体されていたようです。時の流れは切ないものでした。
けれどもこうしてまた、追憶は深まってゆきます。
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股旅
http://pavilion.exblog.jp/33860943/
2024-03-08T05:32:00+09:00
2024-03-08T05:32:02+09:00
2024-02-29T07:38:35+09:00
pavilion-b
旅でござんす
さ~すら~おう~
ラジオから流れてきた奥田民生の「さすらい」。その瞬間にサーッと記憶が蘇りました。
何年前だか、東北を旅したときのこと。レンタカーを運転中に隊長が「あっ!」と叫んで指さしたのは、一見何の変哲もない小山でした。
「あれ、ホラ、『股旅』のジャケットの山や。ここやったんか!」
言われてみれば既視感のある、ヨコとナナメに一本ずつまっすぐな線が入った山です。線は何らかの理由でそこだけ木が伐られたらしい筋でした。
筋の入り方が実に見事に奥田民生マークっぽいので、アルバムの発売当初には実在か合成かという議論が一部であった……かどうだったか。ともかく1998年のこと、今のようにネットですぐに場所が特定されたり情報が広まったりすることもなく、ほとんどの人にとってはマイルドな謎として忘れ去られていった……気がします。
それが20年くらい越しで思い出されると同時に解明した瞬間でした。
まわりは一面田んぼといった長閑な場所。ひとまず車を止めて写真を撮り、すこし先にコンビニを見つけて立ち寄りました。
やや上ずったテンションのまま、コーヒーを注文しながら若い女性店員さんに、
「あの、あっちに見えるあの山は、何ていう名前ですか?」
と軽い気持ちで尋ねると、相手は、
「え? 山? どの山ですか?」
と戸惑い、外まで出てわたしたちの指さす方を一緒に眺めました。改めて見ると、山といってもあまりに低い。相手の反応からして、地元では何とも思われていないのかもしれない、との疑念がもたげます。
「奥田民生の『股旅』のジャケットになった山だと思うんです。ひょっとして有名なのかと……」
「あ、なんかそういう話、聞いたことあるかもです」
店員さんは、もう一人の先輩らしい女性店員を呼びました。しかしその人も「あー、なんか……」と遠い目。
「店長だったら知ってるかな? 店長―!」
結局、店長も知らず。確かに店長でさえ一回りくらい若かったしなあ。でもおかげでワチャワチャと盛り上がった思い出が、コーヒーの香とともに残っています。
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空似の日
http://pavilion.exblog.jp/33860922/
2024-03-01T07:10:00+09:00
2024-03-01T07:13:21+09:00
2024-02-29T07:10:05+09:00
pavilion-b
未分類
続く日って、あるんだなあ。
先日ショッピングモールでふと見かけた人が、長く会っていない知人によく似ていたのです。というか、もうその知人に違いないと思って、声を掛けそうになりつつ、念のため一緒にいた隊長に囁きました。
「あれ、○○さんじゃない?」
「え、どれ?」
ちょうどそのとき相手がこちらに向かって来ました。けれども無反応のまま行ってしまいました。
「いやあ……違うと思うよ」
隊長も首を捻り、そうか人違いか、声掛けなくてよかった、と胸を撫で下ろしたのですが……
そのあとトイレで、偶然さっきの人とばったり! で、やっぱり似ている。しかし相手はまたもしれっと去ってしまいました。
ただその態度も含めて改めて思い返せば、微妙に違う気もする。いや、だいぶ違うかも……。だんだん知人の面影もそれが記憶なのか、いま見たのとごっちゃになっているのかが分からなくなってきました。
「でもさ」と、あとになって隊長。
「もう軽く十年は会ってないでしょ? 容姿もそれなりに変化してるわけで」
確かに、お互い昔の面影のままかどうか、そういわれると心許ない。相手がもし当人だったとしても、こちらが判別不能なほど変化していたとしたら……、いやまさか、そんなはずは、でも自分の変化は自分が一番よく分からなかったりするし……。
「それにさ、仮にその人だったとして、じゃ何話すって、咄嗟に……むつかしいよね」
そんなこんなの帰り道。
脇から出てくる車に止まって道を譲ったら、運転手は軽く手を上げて去って行きました。
「今の……、△△じゃない?」
「わたしも思った! △△君にそっくり!」
二人ともがそう思ったということは、今度こそかなりの確率で当人か? 背格好はもとより、仕草まで、他人だったらちょっと怖いくらいの似方。だけどその人はいま遠い地方にいるはずで、地元ナンバーの車を運転しているのも妙なのです。それにこちらに対して反応もなかったし……。
どうも同じようなことが続いて、ふしぎな感じでした。
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喫茶シャンブル
http://pavilion.exblog.jp/33845431/
2024-02-22T05:55:00+09:00
2024-02-22T05:55:08+09:00
2024-02-21T20:05:48+09:00
pavilion-b
奈良さんぽ
朝9時前。
8時から開いている駅前の老舗喫茶店には、すでに7、8組の先客がいました。二人組の席からはすこし声が聞こえるものの、ほとんどはお年寄りの一人客で、静かに過ごしていらっしゃいます。
わたしたちが入店すると、すぐに若い男女の店員が同時にこちらを見て「いらっしゃいませ」と微笑み、空いている席を見つけて荷物を置くとほぼ同時に、水とおしぼりとメニューを持ってやって来ました。
朝はモーニングメニューのみ。コーヒーか紅茶に、トーストとゆで玉子やサラダといった組み合わせの4種類から選ぶ仕組みで、さすがに最近でこそ値上げされましたが、それでもワンコイン以下の安さです。少ない人数と労力で提供すべく極限まで削ぎ落されたシステムとはいえ、驚きを禁じ得ません。
注文を待つ間、何気なく店内を見渡せば、天井も床もとてもきれいです。入り口の脇には何年か前に作られた一畳ほどの喫煙室があり、目の前でさっそく一人が入って行きました。背筋のシャンとした、いかにも煙草の似合う女性です。
向かいの席には、やはり一人の女性客。上品なフェルトの帽子にウールのコートといういで立ち。テーブルには分厚い手帳が開いてあり、その上に万年筆らしい鮮やかな装飾のペンが見えます。
他の客も、おそらく皆歩いて来られる範囲の方々ばかりだと思われますが、よく見るとちゃんと余所行きの服装です。そして自筆のメモや備え付けの新聞を読むなどしてまったりと過ごしており、たまたまかもしれませんが誰もスマホではありません。
まもなく長身の男性店員が注文の品が運んできて、腰をゆっくり沈めながら丁寧に置いてくれました。三つに切られた山形パンからはやわらかな湯気が立っています。
自分の生まれる前からあるという、いつも駅前を通るたびにほとんど当たり前の風景として眺めてきたこのお店も、今月中旬から2カ月の休業に入られました。店主の引退に伴い、新たな体制として4月から再開されるそうです。
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助け舟
http://pavilion.exblog.jp/33836008/
2024-02-16T06:10:00+09:00
2024-02-16T06:10:04+09:00
2024-02-13T19:11:33+09:00
pavilion-b
食いしん坊万歳
もやしバカよね~
おバカさんよね~
もやしは隊長の好物のひとつ。まあ、わたしも嫌いではないです。どちらかといえば好き、でも好物かといえば、どうも一抹の気恥ずかしさがないともいえない……。
そんな気分に駆られるのも、これすべてもやしの庶民性が故。なんといってももやしは安い。キングオブ食卓といっても過言ではありません。
「ふん、まあそうやってバカにしていればいいですよ。もやし愛を」
独り暮しの時代からずっともやしを食べ続けてきた隊長は、自分の身体はもやしで作られたとさえ豪語(?)しています。定番の野菜炒めから始まり、生姜焼きの付け合わせ、ナムル、味噌汁の具、一番ひもじい時にはもやし丼なる珍メニューまで、あらゆる面でもやしに助けられてきたと。
「野菜炒めには太め、ラーメンの具には細めが合うね」
先日隊長は近所のスーパーでいつもの如くもやしを籠に入れました。それも見切りシール付きを。廃棄寸前ともなれば、看過できようはずがありません。
そうして無人レジでピッ、ピッとバーコードを読ませていたところ、件のもやしで立ち往生しました。見切りシールが皴になり、正常にスキャンできないのです。左右に振ったり、前後に動かしてみてもダメ。シールを直そうにも、破けてしまいそうで……。
仕方なく「呼び出し」ボタンを押し、待つこと数分、ようやく来たパートさんもシールは直せず、結局バーコードを手打ちするはめに。たかが数十円、しかも4割引のもやしに対し、この手間はまったく割に合いません。さすがに恐縮しきりの隊長に、横からスッと救いの手が。
「これ使う?」
なんと隣のレジからベテラン主婦が差し出したのは、同じ見切りシール付きのもやし!
「かめへん? 助かるわあ」
パートさんは素早くもやしを受け取ると隊長のレジでピッと読ませ、主婦に返しました。まあ、会計的にはまちがっていません。
深々と頭を下げる隊長に、ベテラン主婦は片手を軽く上げ颯爽と去って行きました。
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時が醸すもの
http://pavilion.exblog.jp/33828479/
2024-02-08T05:58:00+09:00
2024-02-08T05:58:03+09:00
2024-02-07T09:00:56+09:00
pavilion-b
奈良さんぽ
ちょうど元日のことです。
散歩中に通りがかった瑜伽山園地で、茶室を見学できるという立て札を見て入ってみました。休日には利用者がいなければ見学できるそうですが、お店の営業と重なるのでめったに機会がないのです。
そっと玄関を開けると、バーガンディのセーターを着た男性が現れ「どうぞ」と案内してくださいました。遠慮なく靴を脱ぎ上がらせてもらいます。
「こちらの間は大人数でのお茶会や会合でもご使用いただけますし、最近では結婚式の前撮りなんかで使われるケースもありまして」
なるほど、と座敷から庭を眺めました。じつはここが開園した4年前以降、庭は何度か訪れたのですが、久しぶりに来てみて、出来たての頃の空々しさが薄れ庭らしくしっとり落ち着いてきたのにすこし驚いていたのです。それを素直に伝えると、
「あ、みなさんそう仰いますね」と男性は控えめに頬を弛めました。庭の隅ではこの日も職人が独り黙々と手入れをしています。
そこからちょっと話が弾み、「奥もどうぞご覧ください」と勧められました。廊下の脇には冷蔵庫や電子レンジも備えた現代的な水屋があり、その奥はまたガラリと雰囲気が変わって意匠を凝らした茶室が現れます。なんでも藪内流の茶室だとか。
「藪内流は武家の茶道だそうで、織部とか遠州とか……」
「あ、小堀遠州は、たしか大和郡山にも庭がありますね」
「えっと…、そうですか。そちらはあまり詳しくないものでして」
恐縮しつつ、男性は床の銘木や壁に貼られた藍色の和紙などについて、こちらの質問に丁寧に答えてくださいます。
「この軸は……達筆過ぎて読めないですね。何と書かれているんでしょう?」
「高山任鳥飛、ですね。高山、鳥の飛ぶに任す、と読むんでしょうか」
ほう、と漢詩の響きをしばし味わっていると、また照れたように、
「いや、由緒ある軸とかではないです。そんなに古いものでもないですし」
そう言って、徐に障子の小窓をそっと開けました。窓の向こうには見慣れたはずの竹林が、蕭然と奥ゆかしく佇んでいました。
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水に流して
http://pavilion.exblog.jp/33816298/
2024-02-01T07:26:00+09:00
2024-02-01T07:26:06+09:00
2024-01-31T20:07:06+09:00
pavilion-b
未分類
ちいさな、しあわせ。
朝、お風呂を洗うために栓を抜いて、排水口にお湯が流れ落ちるのをしばらく眺めていました。あいにくの雨です。いつもなら残り湯は洗濯に使うのですが、仕方ありません。
見ていると排水口のある窪みの中で、お湯が少しずつ溜まり始めました。排水口の先が詰まり始めているサインです。いずれもっと流れが悪くなり、窪みから溢れるほどになると、パイプユニッシュが必要になります。あの排水口などに注ぎ、30分ほど置いて汚れや詰まりを溶かして流すアルカリ性洗剤です。その投入のタイミングはしかし、ギリギリまで保留するのが我が家の掟。
どうやらまだその時機ではない、と判断してひとまず寝室へ向かいました。お湯が流れ切るまでの間に布団を畳み、窓ガラスの結露をワイパーで拭います。
このワイパー、数年前にそれまでホームセンターで買っていたのよりも倍ぐらいする国内製品に替えてみたら、性能が全然ちがって、持ちも各段にいいのです。ガラスを擦る部分のゴムが何年も劣化しません。値段は正直だな、というよりコスパは遥かにいいな、と毎朝結露を拭うたびにほくそ笑んでいます。そして持ち手部分のタンクいっぱいに水が溜まると、無性に気持ちがいい。心身のくもりまでスッキリ取れた気がします。
そのとき、お風呂場の音が微妙に変化した気がしました。ふいにゴボッと音を立て、そのあとザーッと流れる感じがしたのです。
見に行ってみると、さっきまで窪みに溜まっていたお湯がなくなり、排水口に向かって渦を巻きながら勢いよく流れ込んでいました。どうやら洗濯に使わなかったぶん、いつもよりたくさんのお湯を流したおかげで、詰まりが勝手に押し流されたようです。
これでパイプユニッシュはまだしばらく要らないな……。景気よくゴボゴボと吸い込まれるお湯を見下ろしつつ、わたしはえも言われぬ愉悦を味わいました。
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激突
http://pavilion.exblog.jp/33803066/
2024-01-25T06:34:00+09:00
2024-01-25T06:57:48+09:00
2024-01-23T19:35:37+09:00
pavilion-b
奈良さんぽ
ライバル出現!?
近郊のとあるエリアにはスーパーが6軒もあります。歩いて回るにはちょっと距離があるけれど、車だとだいたい2、3分の範囲内。経営コンサルタントとか不動産業者とか、事業に詳しい方なら商圏等いろいろ分析してくださるかもしれませんが、一般人であるわたしにはその激戦区ぶりの理由がよく分かりません。周辺には畑も広がっていて、どちらかというと長閑な田舎なんだけど……。
なのに、です。
先日そのうちのひとつのスーパーで、聞き捨てならぬ情報が。店長と思しきエプロン姿の男性にポイントのことで質問をしたところ、彼はそれに答えつつ思わず世間話的にこう漏らしました。
「こんどまた○○さんが出店されるじゃないですか。△△電機さんの跡地に。売り場面積が□□坪っていいますからね……。そこでまあ、姑息なんですけど、こういうサービスも始めまして」
と、カレンダーの描かれたチラシを手に取ります。
「たとえばこの日の午前中は青果のポイントが3倍、こっちは冷凍食品が3倍というわけで、ポイントのサービスデーがあります。まあ、姑息といえば姑息ですが」
いや、ぜんぜん姑息じゃないって。ごくふつうに、サービスだよ。歓迎歓迎。
店長(たぶん)はよほど真面目な性格なのか、ライバル店進出に闘志をメラメラというより、あくまでもできる限りのささやかなサービスで、なんとか自店を盛り立てようとされているようです。いやあ、その正直さがいいじゃない。実際ここの野菜は新鮮だし、ちゃんとまた買いに来ますから、どうぞそんなに姑息、姑息と自虐せず……。
そうはいえ、気になるのはやはり新店。どうやら春先にはオープン予定らしい。そりゃまあ、まずは見てみないことには、ね。
競争も過度だと気の毒ですが、おかげで切磋琢磨してくれるのは正直消費者としてはありがたい。物価高が続くご時世なら尚更。結果的に品揃えも良くなるし。
それにしてもなぜこうも激戦区なのか、やっぱり改めて気になります。
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郷土の香
http://pavilion.exblog.jp/33791919/
2024-01-18T07:24:00+09:00
2024-01-18T07:24:02+09:00
2024-01-17T18:58:27+09:00
pavilion-b
食いしん坊万歳
12月のことです。
お昼過ぎに男性のお客さまが来られ、お店に入りながら「おや?」という表情で店内を見渡す仕草をされたのです。そしてテーブルに水などをお出しした際、顔をほころばせながら、「もしかして、柚子ですか?」と尋ねられました。
「はい、奥でいま煮てます。ピールとジャムを作るのに」
「柚子にはちょっと、敏感なんです」
うれしそうにそう言うと、男性は「高知に居たもんですから」と付け加え、誇らしげにニコッとしました。なるほど、とわたしも思わず笑みがこぼれます。厨房では隊長が実家の庭に実ったたくさんの柚子を、朝から剥いて皮と実に分け鍋でせっせと煮ている最中なのでした。
高知といえば親しい友だちがいて、有名な馬路村だけでなく、周辺の山村でもたくさん柚子や茗荷を作っているのだと教えてもらったことがあります。ほかにも印象的だったのは、「ホントの闇って、見たことありますか?」という話。とにかく山の夜は真っ暗闇で、文字通り一寸先も見えない漆黒の世界なのだとか……。
もちろん人それぞれ、生まれ育った場所についてはいいこともそうでないことも様々な想いがあると思います。でも香が故郷の記憶と深く結び付いているなんて、やっぱり素敵なことですね。
ふと自分の記憶を呼び覚ます郷土の香は? と自問してみましたが、どうもピンときません。東京でも郊外でいま思えばまだずいぶん長閑だったものの、交通量も多かったし、少し行くと工場地帯もあって、そっちの感じの方がむしろ……。
隊長は秋に車で走っているとき、どこからともなく漂ってくる籾殻を焼く匂いに、なんともいえない充足感を表します。隊長の育った場所も新興住宅地だけど、周辺はまだ田んぼだらけで、稲刈りの季節にはそこらじゅうで一斉に白い煙が昇っていたのだそうです。
あ、奈良といえば柿も名産ですね。でも柿も特に香はないしなあ。ただこちらで毎年柿をたくさん食べるようになり、今ではすっかりシーズンが待ち遠しくなりました。
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バイオトイレ
http://pavilion.exblog.jp/33782944/
2024-01-12T21:13:00+09:00
2024-01-12T21:13:48+09:00
2024-01-12T07:55:16+09:00
pavilion-b
未分類
トイレも進化しています。
昨秋、山の散策路で初めてバイオトイレなるものに遭遇しました。とてもきれいな設備でした。
ところでバイオトイレって? 富士山など人気の登山地にあるという程度のイメージで、いざとなると仕組みがよく分かりません。浄化槽と何がちがうの?
で、俄かに調べてみた結果、様々なトイレ、というか排泄物や汚水の処理方法についてたいへん勉強になりました。いや、ひょっとすると小学校でも社会科で習ったかもしれないけど、よく理解していなかったというか……。
市街地の一般的な水洗トイレは、排泄物を下水道で処理場まで運び一括で分解処理します。一方浄化槽はその場で分解処理する点ではバイオトイレと同じですが、水を使うのでやはり水洗式に入ります。
それに対しバイオトイレの最大の特徴は水を使わないこと(非水洗式)。微生物を含んだ木材チップなどに排泄物を混ぜ込み、その場で最終的には肥料として使える土にまで還元してしまいます。よって環境負荷が少なく、公園や僻地への導入が進んでいます。
とそれだけ聞くとバイオトイレ最強! と思いがちですが、やはりそれぞれの方式には一長一短があります。
一般的な水洗トイレの利点はなんといっても処理能力が高いこと。その点で浄化槽やバイオトイレは劣ります。そして浄化槽は原則として電力は不要ですが、バイオトイレは微生物の働きをよくするために攪拌する動力がある方が望ましい。さらに肥料になるとはいえ、それを定期的に出し入れするメンテナンスが必要です。ただそれでも棄てるものがないという点で非常にエコであることは確かですね。実際海外では水が使えない地域や国立公園などで普及が著しいそうです。
能登半島地震の被災地からは様々な困難が伝えられています。中でも断水による不自由は、想像をはるかに超えていると思います。トイレ問題もいち早く伝えられ、全国の自治体から続々とトイレトレーラーが現地に到着するなど、最も喫緊の課題として改めて認識させられました。
わたしの小学生時代にはまだバイオトイレというものは聞いたことがなかった気がするのですが、そういう目立ちにくい分野でも日夜研究開発に勤しんでいる方々がいると思うと、本当に頭が下がります。
たとえば万博などの機会にはぜひ、空飛ぶ車もいいけど、こういう身近で不可欠な技術に注目できるような展示が見られたらいいなあと思います。
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2024(令和6)年元旦
http://pavilion.exblog.jp/33769329/
2024-01-05T05:54:00+09:00
2024-01-06T06:29:39+09:00
2024-01-04T10:55:36+09:00
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奈良さんぽ
風もなく長閑な年のはじまりに。
今年は年始のお休みを長めにとったおかげで、ゆったりとお正月を迎えられました。
一応お雑煮の用意もあったけど、なんとなく寝ぼけ頭にはいつも通りがいいかな、ということで朝食はひとまずパンと目玉焼きに。ラジオは新年特番の街頭インタビューでした。
「今年の目標は?」
「とりあえず勉強がんばります。学年で一番!」
お昼過ぎに外へ出てみると、人も車も少なく、道路が広々としていました。いつもなら音を立てている工場もシンと静まり返っています。電線にヒヨドリが来て、ひとり我が物顔でキョーッと高く鳴きました。おだやかな晴れ間。
ならまち界隈の神社では、ふだんあまり見かけない家族連れなどが数組お参りに来ていました。身じろぎひとつせず真剣に祈る人が終わるのを待って、わたしたちもお賽銭を入れ、鉦を打ち、手を合わせます。脇でかわいい巫女さんがお屠蘇を持っているのが目に入ったものの、つい気後れして素通りしてしまったのが後になって悔やまれました。
予想通り駅や奈良公園の一部は人でごった返しています。でもどうしても百均に用があり、人の隙間を縫うように商店街へ突入しました。千鳥足のおじさんやスーツケースの一団が予測不能の動きをして、百均はすぐそこなのになかなか辿り着けません。しかもようやく辿り着いた店内も混み合い、おまけに目当ての商品がなくて、やっと脱出したときには思わず笑ってしまいました。
まあ、帰ってお善哉でも食べよう、と再び人の疎らな大通りを歩いていたときです。反対側の歩道にいた人や、他にも何方向かから、同時にジャンジャン、ジャンジャン、と耳覚えのある音……緊急地震速報だ!
立ち止まり、低いコンクリート壁に手を付いて待ちの姿勢をとりましたが、何も起こりません。車もスーッと走っています。あれ? と思いながら見渡すと、電柱がすこし揺れている感じがしました。と、直後に地面が揺らぎ、信号機も大きく撓み始めました。後から遅れて長周期の揺れが来て長く続くのは東日本大震災の時と同じです。これは大地震だ、と緊張しました。ただ他の人は無反応で、車も相変わらず何事もなかったようにスーッと通り過ぎています。1分後くらいでしょうか、やがて大きな揺れも治まりました。
まっすぐ帰宅してラジオを点けると、アナウンサーが津波警報を伝えるとともに緊迫した大声で「いますぐ逃げてください!」と連呼していました。
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あたまうち
http://pavilion.exblog.jp/33728620/
2023-12-28T06:33:00+09:00
2023-12-28T06:33:02+09:00
2023-12-20T19:34:41+09:00
pavilion-b
未分類
4×7=28、7×6=42、8×7=……5……3?
先日、思いっきり頭をぶつけました。
お店で掃除機をかけていて、何気なく立ち上がったらそこに本棚の角が……。ガーンと当たった瞬間、漫画みたいに一瞬キラキラ星が飛んだかもしれない。
イッターッと頭を触ると、指先に……血!
「ナンジャコリャー!」
大騒ぎしたものの、厨房の奥でコーヒー焙煎中だった隊長には聞こえません。
作業が一段落するのを待ってからあらためて惨状を訴えると、隊長は冷静に懐中電灯を持って来て頭を覗き込みました(メガネを外して裸眼で)。
「そーっと、お願いします!」
「大丈夫だよ。ちょっと血が出てるけど、腫れてないし」
「でも、ガーンッて!!」
「たんこぶも出来てないよ」
しかし自分では傷が見えないので不安が拭えません。触りたい、けどグッとそれも堪え。ただ気にしまいと思うほど、却って気になるもの。なんだかズキズキ疼くような気がしてきて……。
「あのね、他のことしてたら忘れるから。気にしすぎだから」
ソワソワするわたしに、あくまでも沈着な隊長。確かにじっとしているとつい気になってしまう。そこで冒頭の九九を唱え始めたわけです。ところがパッと計算が出てこないと、すわ頭部打撲のせいでは! ……いや待てよ、計算はもともと得意じゃなかった……。
結局痛みはいつの間にか消えていました。翌週にはかさぶたも取れてすっかり元通り。でも箇所が箇所だけにしばらくは心配でした。何かと気忙しい年末、いつも以上に落ち着いて行動しないといけないなあと反省した次第です。病院が休みになる年末年始に限って体調を崩すなんて、結構あるあるですから。
今年も残りあとわずかですが、ゆったりと、しかし気を緩め過ぎずに過ごしたいものです。
・・・・・・
本年もどうもありがとうございました。
お店は年内は12/29(金)まで、年始は1/6(土)より営業いたします。
皆さまも身体をお大事に、どうぞよいお年を!
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ソヴィエト旅行記
http://pavilion.exblog.jp/33723244/
2023-12-21T05:55:00+09:00
2023-12-21T05:55:03+09:00
2023-12-19T19:24:56+09:00
pavilion-b
絵本と本のこと
ほとんど1世紀前の著書でありながら、まさしく現代にも通じる内容だと驚かされます。
『ソヴィエト旅行記』はフランスの作家アンドレ・ジッドが、1936年夏ソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)を訪問した直後に刊行されました。
ジッドは当時のヨーロッパ、とりわけフランスの左派知識人にはかなり多くいた共産主義シンパの有力な一人であり、だからこそソヴィエト作家同盟からの招待という特別な形での訪問が実現したわけです。しかし嬉々としてソ連を訪れたジッドが直ちに書き綴ったのは、期待とは裏腹の現実に対する痛烈な批判であり、率直な失望でした。
わたしは高校時代にソ連崩壊を目の当たりにした世代なので、そもそもソ連にはあまりいいイメージを持っていませんでした。持ちえなかったというか。映画をはじめメディアではソ連=悪者という分かりやす過ぎる構図が定着しており、それはそれで問題があったと後に気づかされますが、ともかく自滅に近い国の末路を見て、やはり共産主義はまちがっていたという認識を素朴に抱いた一人でした。同時に、それゆえにそのことについて深く考えもしなかったのです。
本書を読んでまず目を開かれたのは、20世紀前半の社会におけるムードです。特に人類初の(第1次)世界大戦を経て既存の社会に絶望していた人たちが、真に平等な社会を実現し得る壮大な実験場としてのソ連に、熱い眼差しを注いでいた様子がありありと想像できます。のちの時代に生まれたわたしたちが知らないそういったムードを、まさにその当時に書かれた本によって知り得るという、その力にあらためて感じ入りました。
そしてそれ以上に戦慄させられたのは、理想を掲げた社会がかけ離れた形へと歪んでいく過程において、その要因は主義でも独裁者でもシステム障害でもなく、人間そのものだという現実の冷酷さです。
これは今日の世界を見てもまったく明らかです。それゆえに本書は今なお生々しいのだと思います。光文社古典新訳文庫によってなおいっそう生気を帯びて甦りました。
■『ソヴィエト旅行記』アンドレ・ジッド(光文社)2019年]]>
そんなに見ないで!
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2023-12-15T20:17:00+09:00
2023-12-16T06:59:07+09:00
2023-12-15T20:12:22+09:00
pavilion-b
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メガネの人は特にご注意を。
隊長の体験談です。
先日とても小さな文字の書類を読んでいました。古い書体も混じった手書きの書類で、ほら、あるじゃないですか、大字というそうですが、改竄を防ぐ目的でわざわざ画数の多い漢数字を使うやつ。ああいうのがたっぷり入った文章で、おまけに縮小コピーなもんで、ところどころ字も潰れててなかなかに読みづらい……
それをなんとか解読して、書き写そうとしていたわけです。
そうすると隊長は最近すっかり近くが見えづらいアレなので(わたしもとっくにソレですが)、見えづらいときはメガネを外し、書面に顔を近づけ目を凝らします。隊長のように強い近眼の人は、近くを見るときには逆に裸眼の方がよく見えるらしいですね。
で、書き写すときにはまたメガネを掛けます。作業中これを何度も繰り返します。何度も何度も……すると、眉間のあたりが次第に重くなってきました。
最初は軽い違和感でしたが、そのうちズキズキと痛んできました。さらにちょっと我慢しづらいほどになり、同時に吐き気まで催しはじめたのです。
これはおかしいと、さすがに作業を中断して目を閉じたりしてみましたが、一向に症状は改善しません。仕方なくその日はもう何もせず、お風呂に入って、目に手を当てたりしてなんとか血行が良くなるよう努めました。それでもまだ眉間は痛く、乗り物酔いみたいな気持ち悪さが続きます。心配だけど、ひとまず寝てしまえとなり……
翌朝にはケロッと何事もなく治っていました。
ヨカッタヨカッタなのですが、これがいわゆる眼精疲労というものか、と初体験に驚いた次第です。よくメガネを作る際など、検査用のレンズを掛けた状態で「気持ち悪くないですかー?」とか聞かれるのは、こういうことだったのねと。
どうやらメガネの付け外しを素早く繰り返すようなことが良くなかったみたい。皆様もどうぞくれぐれもお気をつけください~
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○○ウォッチング
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2023-12-08T06:13:00+09:00
2023-12-08T06:13:02+09:00
2023-12-06T16:15:30+09:00
pavilion-b
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趣味の方向性によって見る角度がまったくちがうものです。
秋たけなわのころ、近郊の野山へ出かけました。
陽射しも暖かで、溜池の畔にはのんびりと釣り糸を垂れる人がちらほら。赤や黄色に色づく木々が周囲を彩り、鳥の鳴き交わす声が響き渡ります。
山の中へと続く散策路を歩いて行くと、前方に夫婦らしい二人組がいました。それぞれ手にはバズーカみたいな一眼レフカメラ。そして二人して藪の方をじっと見据え、立ったまま静止しています。
まだカメラは構えていなかったので、驚かさないようにと脇を通る際に隊長が「野鳥ですか?」と小声で挨拶しました。けれども二人は微動だにせず、反応も示しません。なんとなく緊迫感もあり、できるだけ足音を忍ばせ足早にその場を通り過ぎました。
「何かいた?」
「かなり本気だったね」
わたしもネットで気になる野鳥を調べたりすると、「どうやってこれ撮ったんだろう?」と感嘆する見事な写真がたくさん出てきます。きっとそういう写真を実際に撮っている人たちだろう、と納得しました。
そんなことを考えながら歩いていると、ふいに反対側の茂みからガサガサッ! びっくりして思わず飛びのくと、音のした方から、やはり夫婦らしい二人がのそっと立ち上がりました。相手もどうやら私たちの接近に驚いた様子で、目が合った瞬間、互いに照れ隠し気味に会釈しました。二人はしっかりしたアウトドア服を着て、直前までほとんど地面に這いつくばっていたようです。
先のこともあり、ひとまずその場から足早に離れつつも、あれは一体何をしていたのか? ムズムズと気になりました。
「相手が立ち上がる直前にさ、倒木の下を覗き込むように屈んでた気がするんだよね」
「倒木の下?」
「そう。裏っかわの方に、びっしりキノコが生えた」
「あ、そういえば、女の人は手に虫眼鏡みたいなの持ってた気がする」
二人してキノコの研究家? ありそうで意外になさそう、でもやっぱり意外にあるのか……。いずれにせよ、そっちはそっちでものすごく奥深そうだな。
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